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「あなたがいるから買い物するのよ」八百屋見習いが気づいた客と店員の絶妙な信頼性

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家業の八百屋を手伝い始めてから一ヶ月弱、店には日々たくさんのお客さんがやっていきます。

平日の昼間はおじいちゃんやおばあちゃん。それに赤ん坊を連れたお母さん。妊娠中の妊婦さん。それに仕事中のタクシー運転手などなど。

休日になると、お出かけ中の夫婦やカップル、それに散歩をしている近所の人がふらりとやってくることもあります。

時間帯によっても客層は違います。おやつの時間になると、幼稚園生を抱えたママさんたち、それに夜のお店の材料を仕込みにくる、各種レストランや居酒屋の店主・店員たち。夕方ごろになると帰宅中のサラリーマンやOLさんたちが夕食の材料を買いにきます。

先週の土曜日はちょっと早いハローウィーンということで仮装した子供達が商店街のあちこちを飛び回り、八百屋にもいたずらしにきていました。

さて、そんな様々な客層が訪れる八百屋の商売には素敵な関係性がありました。

雑で粋な関係性と信頼性が商売の基本。

八百屋を手伝っていて、とってもびっくりしたことがあります。

それはある一定のお客さんは、買い物をしにくるのではなく、八百屋で働いている社長(おじいちゃん)や売り子(お手伝いさん)に会いにきているということ。

店員さんの顔を見にきて、「あー元気そうでよかった」と言って、世間話を始めます。

そうして、一通りお話が終わると、「なんかいいものあるかしら?」と聞きます。

売り子さんも、「あら久しぶりね、最近、顔見なかったじゃないの」とか「髪切ったのね」「お連れさんは今日はいないのね」と返す。

何か欲しいものがあって八百屋に買い物をしにきているのではなく、ここで働いている人と世間話をしにくる。

そして、ついでのように何かを買って買っていくという商売が八百屋にはありました。

そこには、継続的にやり取りをし続けているちょっと雑で粋な関係性と信頼性があるのです。

売りたいものを買ってもらう

「今日は何が美味しいの?」

と聞いてくるお客さんがいます。

そうでなくても、視線がうろうろうろうろと品物を目移りしている人にはどんどんと声をかけます。

「これが安い」「これが美味しい」とか「これは買うべきだよ」「おまけおまけ」と言ってカゴにどんどん品物を追加していきます。

最初その光景を見たときは「なんなんじゃ!」と思いました。

僕のこれまでの感覚は、買い物というのはお金を使うお客さんに買うかどうかの決定権があり、売り手はその決定を待つ、という認識でした。でも八百屋は違います。ひっきりなりにお客さんが来るので、そんな悠長なことはしていられないのです。

いってみれば、八百屋がオススメして買ってほしいもの=お客さんが買うもの。それを短時間でできる限りマッチングしていく。それが八百屋という小さな小売ができる最大の商売戦略です。

だから、お客が来るとどんどんオススメの商品を連呼してお知らせする。耳からの情報は判断に非常に影響を与えます。優柔不断なお客に対しては、悩んでいるポイントをすぐに聞き出して、オススメの方をプッシュする。

そうやって、買い手の判断にどんどんと干渉して行くのがウチの八百屋のやり方です。

もちろん、毎日、毎週、毎月と同じお客さんが来て、同じものを買っていけば嗜好性もわかってきます。

だから、その人と会った時の第一声が「今日はぶどうがないんだよ」「早く来ないかたアボカド売り切れちゃったよ」というように、必要な情報を伝えるということもできるのです。

八百屋の商売はいかに短時間でお客のニーズを掴み、声かけによって、自分たちの売りたいものを買ってもらうか、という商売である。

小さなインフラビジネスだからできること

 

八百屋の扱っている製品が野菜や果物であること。これもとても重要なポイントです。

お米ほどではないですが、野菜や果物も自分の毎日の生活をする上では必須となるもの。嗜好品ではなく、食料という人間の身体を作るものですから。

いってみれば、八百屋というのは小さなインフラを扱う商売と言ってもいいでしょう。

美味しい果実や野菜を・低価格でできるだけ多くの人に届けたい。これが八百屋の使命です。

多分、スーパーも同じでしょう。

でもスーパーと八百屋では決定的な違いがあります。

それが、規模の大きさです。

人間の安心は小さくで密な関係性の時に生まれます。そこに居心地の良さが生まれやすいからです。

不特定多数の一人として、機械の声に「いらっしゃいませ」をいわれ、レジにお金を投入するよりも、一個人としての「元気かい?」に安心し、お金の計算を一緒になってするような人間味溢れるやり取りをしたい時もあります。

そんなときはぜひ、小さな八百屋に遊びにきてください。

「あなたがいるからまた来たのよ」

もちろん機械化し、便利になっているこのご時世です。

効率化するものは効率化していくのがベストだと僕は思っています。

でも、効率化してはいけないもの、安心を感じられる小さなやり取り、そういう価値がある商売を残しておくことも、社会のダイバーシティを確保した発展というものではないでしょうか。

「あなたに会いにまた来ちゃった」と言って日に何度もくるおばさんたち。

「あらあら、買い忘れ?もう、しょうがないわね、取って来てあげるわ」という店員さん。

そんな、下町風情あふれる、何の気兼ねもないやり取りの心地良いこと。

中目黒の駅を降りて、商店街をまっすぐ。突き当たり右手前に八百屋はあります。

ぜひ、遊びに来てくださいな。